あの頃の、男の子のはなし

あの頃の僕たちは好奇心とくすぐったい気持ちで出来ていました。 思春期の思い出を綴るエッセイです

かっこいいテリー

 男性にとって「かっこいい男」とは「尊敬できる人物」とほぼイコールであると僕は考えます、今回はそれに当てはまらない例外のお話をします。

僕が20歳くらいの頃、夜~深夜にかけてファミレスで接客のバイトをしていました。海のそばにあるので夏は混みますがそれ以外の季節はほとんどお客が来ない店で晩飯時を過ぎた平日はお客さんが5人いればいい方でした。

こんなお店に深夜来るお客さんはいわゆる「常連さん」が多く、店長の「フランクな接客」 と言う方針も合ってチェーンのファミレスにも関わらず店員のほとんどがその人たちと仲良く世間話などをしていました(常連以外には嫌な店ですよね)「常連 さん」には色々個性的なお客さんが多くて、何故か皆さん必ず同じモノを注文します。「マスター、いつもの」って言うのをヤリたいんでしょうかね?しまいに はそのお客さんが来ると同時に注文を聞かずに厨房にオーダーを出すくらいです。「○○さん来ました」「あいよー!」ってな感じです。

ヒレカツ定食のおじいさん、この人は男性従業員とは一言も口を利いてくれません。女の子のアルバイトとニコやかにおしゃべりするのが楽しみなようです。大 盛りハンバーグ定食のサラリーマンの男性、この人は毎回パチンコで獲得した景品をお土産に持って来てくれます、やはり女の子とのおしゃべりが楽しみなよう でした。

そしてそれら「常連さん」の中でも一際異彩を放っていたのが従業員から「テリー」と名付けられたお客さんでした。見た目は20代半ばくらい、長身で鍛え上げられた褐色の体躯に丹精な顔立ち。スタイルのいい体に白いポロシャツに黒いジーンズ、黒いテンガロンハットカウボーイブーツを履いて、何故か「日本刀」を持っていました。もう見た感じからして「普通でないオーラ」が出ていましたが口数も少なくなんだか話かけづらい雰囲気なのでしばらくは「どんな人なんだろう?」とみんなで噂し合うだけでした。

「テリー」が店に来るようになって3ヶ月くらい経った頃、勇気を出して聞いてみました。「その日本刀、本物ですか?」本物な訳はありません、立派な銃刀法違反です。ですがそう聞くと「いや、模造刀ですよ。役者目指してるんで居合いをやってるんです。」と、さわやかに答えてくれました。

その日以来、「テリー」とも仲良く話すようになる事が出来たのですがこの異彩キャラは女性従業員よりむしろ男性従業員から人気がありました。ミスコンテス トの男性版みたいなので優勝した事があるくらいで見た目のかっこ良さはもちろんでしたが、何よりもその触れれば切れそうな雰囲気がまさに「男の惚れる男とはこうだ」と言うのを具現化したような人だったのです。

如性従業員から人気が無かった理由がもう一つあります。

それは見た目のシビれるようなかっこ良さや雰囲気に反して、話してみると意外と「おバカ」だった事です。考えてみれば深夜のファミレスにカウボーイの服装して日本刀持って入る人間がまともな訳ありませんが、この人は大のテレクラ好きでした。深夜の従業員はみんなバイトで学生でしたから、男であればこんな話に興味津々で女性であれば嫌悪感を抱くのも当然ですが、僕はテリーの武勇伝を喜んで聞くのでした。例えば「いやぁ、結構彼氏いなくて暇してる女の子っているもんなんだよ。だからヤろうと思えばすぐ出来る、ただしテレクラに電話するような子に可愛い子は残念ながら居ないねぇ」ってな感じです。女性に嫌われて当然です。

僕はその店に車で通っていたのですが、ある日バイト帰りの深夜2時ごろいつもと違う道を通って帰っていると字住宅街で家の前にうずくまっている人がいます。少し不審に思いながら万が一の場合もあるので車を停めて近寄ってみるとそれはテリーでした。「何やってるんですか、こんな時間に?」するとテリーはさわやかに笑いながら「ここは僕の家で毎日こうして体を鍛えるのが日課なのさ」と答えました。

???
何故自宅前でハァハァ言いながら汗だくになりながらダンベルを上げ下げするのさ?

家の中でやれよ!怖いよ!!!
なんかの事件かと思ったじゃんか!

そう思っていると

「いやぁ、毎日何回出来たかちゃんとチェックしないとね」と言いながらダンベルを上げ下げした回数をノートに書き込みます。話しながらもトレーニングは中断しません。

・・・・・・
努力家なんだろーな、この人。
でも、バカだな。

「かっこいいんだけどねぇ、、、バカだからねぇ、、、、」
「記憶には残るよね」
と、言うのが従業員一同によるテリーの評価でした。