あの頃の、男の子のはなし

あの頃の僕たちは好奇心とくすぐったい気持ちで出来ていました。 思春期の思い出を綴るエッセイです

母性本能が僕にもあった事

 今回は猫がとても可愛すぎると言う話です。

昔、1人暮らしをしている彼女と付き合っていた頃その彼女が知り合いから仔猫をもらってきました。それまでの僕は「犬だろうが猫だろうが動物 を可愛がるなんて軟弱」と、言うような価値観を持っていたのですが生まれたばかりの弱々しい儚げな命を見た途端にそれまでの考えは一気にふっとんで「この 小さな命は俺が守る!」などと言い出して当時の彼女に大変笑われました。

それまでクリスマスなどの記念日以外に特に彼女に贈り物とかしたことも無いくせに、僕は彼女の家を訪れる度に猫缶を買って行き、おいしそうに 食べる仔猫を満足そうに眺めては彼女から「私と扱いが違いすぎる、と言うかこれまで言ってた事と態度が逆」と怒られました。そういえば初めて彼女が出来た 時も女性に対する価値観が180度変化したような気もします。

この仔猫の可愛さを書き始めればキリが無いのですが、仔猫の方でも大変僕になついてくれて、とにかく僕の後をついて回ります、トイレへ行こう ものなら僕が出るまでトイレのドアをカリカリと引っ掻いて僕が早くでるように催促します。テレビなどと見ていると僕の膝の上に乗り、しばらく頭をなでてや るのですがそのうち頭をなでるのを止めたりすると僕の顔を見上げながらニャーニャーと鳴き、僕の手に頭をこすり付けてもっと頭をなでるように催促をしてき ます。

悪さをした時などは、もうこちらも母猫の気分になっているのでカァーッと大きな声を出してびっくりさせてやると一目さんに遠くまで逃げて行き、僕の顔色を伺いビクビクとしながら近くまで寄って来て、いつのまにかまた膝の上に戻りまた頭をなでるようにニャーニャーと催促をしてきます。

この頃の僕の口癖は「俺は生まれてこの方、こんなにも愛された事は無かった」でした、僕は特に愛に飢えてたわけじゃなくどちらかと言えばロクデナシの割りに周囲の人に恵まれ豊かな人生を送っていたのですが、ここまで全身全霊をかけた愛は正直びっくりで「俺はこの仔の母親なのだ、将来いい嫁さん(男の子だったので)見つけてやるからな」と幼い仔猫の将来設計まで考えていました。

残念ながら、この仔は僕の仕事が忙しく2ヶ月ほど彼女の家に行けなかった間に病気で死んでしまいました。この件についてはただただ悲しいとしか表現は出来ません。

あれから数年たった今でも「あの仔に会いたいな」と思うときがあります、新しい猫でも飼おうかなと思うときもありますがなんだかあの仔を裏切る ようで踏ん切りがつかないで居ます。この事を友人に話すと「とてもお前らしいけど、そういう貞操感念をなぜ女性にも持てないんだ?」と聞かれると返答に大 変困ります。